原作者ジョゼ・ジョヴァンニの名も知らず、ジャン・ポール・ベルモンドもこれがデビュー作と勘違いしていた。
予備知識があったのは、主演のリノ・ヴァンチュラだけだったか。
原作の翻訳は十年後。
ベルモンドの登場シーンには目を見張ったものだ。こんなにもかっこいい役者がいるのかと素朴に感動してしまった。ゴダール映画よりも数等まさる。
河原町蛸薬師の角に文映という薄汚い小屋があって、文化映画劇場の略かなにかよく憶えていないが、そこに祖母に連れられて行った。京都に移って間もないころだった。
この小屋はわりと早く廃業して、キャバレーに変わった。
この映画とつながった思い出のみが不思議と残っている。
とっくに消えた作品になっていると思っていたら、『墓に唾をかけろ』とセットでDVD化されていたのである。
ボリス・ヴィアン原作、クリスチャン・マルカン主演の『墓に唾をかけろ』だ。
原作はアメリカ黒人抗議小説のパロディのようなものだったことを記憶しているが、映画のほうは成人指定にはばまれて観そこねてしまったのだ。